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東京高等裁判所 昭和34年(ム)16号 判決 1961年12月07日

再審原告 上告人・控訴人・原告 久保井浜子 外五名

訴訟代理人 奥村又雄 外三名

再審被告 被上告人・被控訴人・被告 久保井テイ子

訴訟代理人 五十嵐太仲 外一名

主文

再審原告らの再審請求を棄却する。

再審の訴訟費用は、再審原告らの連帯負担とする。

事実

一  再審原告ら訴訟代理人は、「東京高等裁判所が同庁昭和三一年(ネ)第二、六六三号調停無効確認請求控訴事件について昭和三四年六月一六日に言い渡した判決を取り消す。申立人再審被告相手方久保井銀次郎間の東京家庭裁判所昭和二三年(家イ)第一、六八一号財産分与調停事件について昭和二四年二月一七日に成立した調停は無効であることを確認する。訴訟費用は本訴再審とも再審被告の負担とする。」との判決を求め、再審の事由として、つぎのとおり述べた。

(一)  再審原告らは、再審被告を相手方とする東京地方裁判所昭和二八年(ワ)第七、三二三号調停無効確認請求事件において、昭和三一年一〇月二四日「申立人被告(再審被告)、相手方亡久保井銀次郎間の東京家庭裁判所昭和二三年(家イ)第一、六八一号財産分与調停事件につき、昭和二四年二月一七日成立した別紙第一記載の調停条項第二項のうち別紙第二記載の土地に関する部分に限り無効であることを確認する。原告(再審原告)等のその余の請求を棄却する。訴訟費用はこれを三分し、その二を原告等の、その余を被告の各負担とする。」との判決を受けた。これに対し、再審原告らから東京高等裁判所に控訴し、昭和三一年(ネ)第二、六六三号事件として審理されたが、昭和三四年六月一六日控訴棄却の判決の言渡があつた。再審原告らは、さらにこの判決に対し同年七月六日上告し、同月八日上告受理通知書の送達を受けたが、上告状に上告の理由を記載せず、また上告理由書の提出もしないまま、その後五〇日を経過したため、同年九月一七日付で東京高等裁判所の上告却下の決定があり、同月二三日再審原告らに対し同決定正本の送達がされ、同決定は、その頃確定し、右判決も確定するにいたつた。

(二)  再審原告らは、右久保井銀次郎の相続人であつて、昭和三〇年六月五日銀次郎の死亡によつてその地位を承継したものであるところ、右訴訟において第一審以来、再審被告を申立人、銀次郎を相手方とする東京家庭裁判所昭和二三年(家イ)第一、六八一号財産分与調停事件について昭和二四年二月一七日別紙第一記載のような条項の調停が成立したものとして調書が作成されているけれども、銀次郎においては、この調停で調停条項第一項の分家者の意思に基づかない分家届に関する合意だけがされたものと信じていたところ、まつたく合意したことのない調停条項が調書に記載されるにいたつたもので、調停は無効である、仮に右調停が成立したとしても、調停調書に添付された物件目録には第三者所有の土地(別紙第二)や表示の誤つたもの(別紙第三)があるなどして、これを銀次郎が知つていたとすれば、このような調停に応ずるはずがないから、銀次郎のこの調停における意思表示は要素の錯誤に基づくものであり無効であるなどと主張し、右調停の無効確認を求めて来た。ことに、再審原告らは、すでに第一審において、昭和二八年一一月二八日付準備書面第五項をもつて「原告(右銀次郎)は貧農に生れ、原告の家に養子となつたもので文盲であつて自己の財産が文字によつて表現されても付添人がなければはつきり判らない」と陳述主張した。本件調停調書は、当時このような事情にありかつ脳軟化症で意識ももうろうとし、署名することもとうてい想像できず、陳述することも正確にできない八〇才をこえる老齢の銀次郎によつてされた合意にかかるものである。右の陳述は、本件の判決に影響を及ぼすべき重大な事項にかかるものであるといわなければならないのに、本件第一、二審の判決は、いずれもこれについて何ら判断を示していない。これは、再審の趣旨記載の確定判決について民事訴訟法第四二〇条第一項第九号の再審事由がある場合に該当する。再審原告らは、みずから右判決に対し上告したうえ、上告理由書の提出を弁護士に委任しておいたところ、昭和三四年九月二三日その提出がないことを理由とする上告却下決定の送達を受けて驚き、はじめて再審原告ら訴訟代理人に再審事由の検討を依頼し、同年一〇月二〇日前記再審事由を知るにいたつたものである。法律のしろうとである再審原告らが本件第一、二審判決を検討して右再審事由を知りこれを上告審手続上主張することはまず不可能であり、また、上告人には法律専門家である弁護士を代理人として選任する義務がないのであるから、本件は、民事訴訟法第四二〇条第一項但書の適用ある場合にあたらないというべきである。よつて、再審の趣旨のとおりの判決を求める。

なお、再審原告ら訴訟代理人は、再審原告飯山志まの訴訟委任状は、追完できないと述べた。

二  再審被告訴訟代理人は、再審原告の請求を棄却する、訴訟費用は再審原告らの負担とするとの判決を求め、再審の事由第(一)項の事実は認めるが、同第(二)項については、再審原告ら主張の準備書面における調停無効の主張にかかる事実は否認する、いわゆる再審の事由を知つた日については知らない、いずれにしても再審の事由はないと述べた。

三  再審原告ら訴訟代理人は、甲第一ないし第四号証を提出し、再審原告久保井浜子本人尋問の結果を援用し、再審被告訴訟代理人は、甲第一、二号証の成立は認めるが、その余の甲各号証の成立は知らないと述べた。

理由

一  本訴が再審原告ら六名の名義で再審原告ら訴訟代理人によつて提起され、その後の訴訟行為が追行されて来たものであるところ、再審原告ら訴訟代理人において結局再審原告飯山志まについては訴訟代理権を証明することも追認をうることもできなかつたことは記録上明白であるので、同人自ら訴を提起したものと認めることができない。

二  ところで、再審被告を申立人、久保井銀次郎を相手方とする東京家庭裁判所昭和二三年(家イ)第一、六八一号財産分与調停事件においてこの当事者間に昭和二四年二月一七日別紙第一記載のとおりの条項の調停が成立したものとして調停調書が作成されたこと、右銀次郎は昭和三〇年六月五日死亡し、飯山志まを含む再審原告ら六名がその相続人であるところ、この六名において相続により銀次郎の法律上の地位を承継したこと、右調停の無効確認請求訴訟が飯山志まを含む再審原告らから再審被告を被告または被控訴人として追行され、その訴訟手続の経緯が再審原告らが再審の事由として主張するとおりであることは弁論の全趣旨および一件記録に徴して明らかである。右の事実から明らかなとおり、右調停無効確認請求の訴訟は、調停の一方の当事者である久保井銀次郎について調停の成立当時存した事由を主張して調停の有効な成立自体を争うものであり、銀次郎の死亡後同人の地位を承継した相続人においてこれを追行するにはその全員によつてのみはじめてすることのできるいわゆる固有の必要的共同訴訟に属する。

もともと、再審の訴は、確定の終局判決について、訴訟手続上の重大なかしや判断の基礎における異常な不公正、欠陥があることが判つた場合、法的安定の要求から尊重されるべき確定判決を、例外的にその既判力から解放して是正し、特に裁判の適正、司法への信頼を確保しようとするものである。したがつて、この訴は、法定の再審事由の存在を主張し、その判決の取消と本案事件の再審判を求める非常の不服申立方法として認められている。それは、本来の上訴とは異なるものがあるとはいえ、判決に対する不服の訴である点で上訴に類似し、いつたん終結した訴訟手続の再開を求める点でその訴訟に付随している。このような再審の訴の目的および性質からすれば、再審の対象となる確定判決にかかる訴訟が必要的共同訴訟である場合は、その共同訴訟人のあるものが再審の訴を提起すれば、その効力は、その余の共同訴訟人に及ぶものと解するのが相当である。

したがつて、本件において、前示のとおり飯山志まが自ら再審の訴を提起したことを認めることができないけれども、その余の再審原告らによる再審の訴提起の効力は、再審の対象たる確定判決にかかる本件調停無効確認請求控訴事件においてこれと必要的な共同訴訟人の関係に立つ飯山志まに及び、これを再審原告とならしめるものということができる。

三  そこで、進んで再審原告らが再審の事由第(二)項において主張する昭和二八年一一月二八日付準備書面第五項記載の事実に関する判断遺脱について考える。

再審の訴による不服の申立は、民事訴訟法第四二〇条第一項各号に定める事由があつても、当事者が上訴によりその事由を主張したときまたはこれを知つて主張しなかつたときは、これが許されないことは、同項但書の規定により明らかである。そして、ここにいう当事者が知つて主張しなかつたときとは、当事者本人ばかりでなく、その訴訟代理人についてもいうのであつて、もし訴訟代理人が再審事由を知りながらこれを主張しなかつたときは、当事者本人においてもまたこの事由を知つて主張しなかつたものとなすべきものと解するのが相当である(昭和一四年九月一四日大審院判決民集一八巻一六号一〇八三頁)。再審原告らのこの点に関し反対の見解に立つ主張は、すべて採用できない。

ところで、本件において仮に再審原告ら主張の点の判断遺脱があつたとしても、再審の訴の対象になつている当裁判所昭和三一年(ネ)第二、六六三号調停無効確認請求控訴事件の判決は、昭和三四年六月二一日に、訴の提起以来当時まで再審原告らの訴訟代理人であつた弁護士横溝貞夫に送達されていることが一件記録上明らかであり、一般に判断遺脱のかしは判決理由を一読すればただちに知りうべきものであるばかりでなく、本件で判断の遺脱があつたとされる右主張事実は、すでに第一審手続中に右訴訟代理人により陳述されていることが再審原告らの主張によつても明らかであるから、特段の事情の認められない限り右訴訟代理人が前示判決の送達を受けたときまたは少なくともその直後にその判決の内容を知悉し、その理由中に判断遺脱のかしがあるかどうかを知つたと認めるに十分である。本件においてこれを反対に認むべき特段の事情はまつたくうかがわれない。したがつてまた、当事者本人たる再審原告らは、その不知を主張できないといわなければならない。

四  右のとおりである以上、再審原告らの本件再審の請求は理由がないことが明らかであるから、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項但書を適用し、よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 入山実 裁判官 荒木秀一)

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